中辻英恵

どこやらのカフェバーで、最後にもう一度だけ会って、と女が必死に振られた男に電話をかけている。その口実は、キッチンから盗んできた鍋の蓋を返したいから。バッグから取り出された蓋にはその途端から｢自我｣が芽生え、まわりと自分と女のやりとりに戸惑い、誰の耳にも届かぬ語りかけと独り言を繰り返す。安部公房の｢棒になった男｣をちょっとだけ思わせる可愛らしい不条理劇。

登場人物　女１人　男１人　<蓋>性別不明　上演時間約４５分

若い女・谷山が、スウェットの越から伸びた異常に長いひもを垂らしてたたずんでいる。ひもは、ワンルームの中に、うねって、山を作り、ぬたくって、動けば絡まって足を取りながら部屋を埋めている。仕事を無断欠勤している谷山を心配して、同僚の山谷がかたわらにいる。切ればいいじゃない、の山谷の言葉に、谷山はいいのこのままで風なことを答えている。インターホンが鳴り、ひも回収のプロ・ハンターがやってくる。それも拒絶し、ひもの海の中にとどまろうとする谷山には、あるやるせない心情があった。第３１回OMS戯曲賞最終候補作。
登場人物　女２人　　上演時間約３０分

放課後の教室。机を集めて大きな机にしたまわりに、二人の女子学生、ひなたと萌が座っている。彼女たちは、身の回りの細々したものを、それぞれの取り分として選り分けている。憧れの先輩が捨てた、ゴミを拾い集めてこれくしょんにしているのだ。だが、ひなたがこんなことはもうやめようと言い始める。萌はやめたくないと拒絶するが、そのうち、ただこの人のものだけは絶対にやめたくないと、意外な人物のゴミを鞄の中から取りだしてひなたに見せる。
登場人物　女２人　　上演時間約６０分